教えてドクター
食道がんについて
食道とは
食道は咽頭(のど)と胃をつなぐ,成人で25cm程度の筒状の臓器であり,体の中央に位置し,周囲には気管,心臓,大動脈,肺などの臓器があります。食道の壁は,内腔側から外側に向かって,粘膜(上皮,粘膜固有層,粘膜筋板),粘膜下層,固有筋層,外膜に分かれています。食道は,食物を胃に送る働きをしており,食道腺から分泌された粘液により,食物が通過しやすくなっています。また,食道の筋肉が順に収縮することによって,食物を胃に送り出しやすくしています。
食道と胃の位置
食道がん深達度亜分類
食道がんとは
食道がんは60歳以上の高齢の男性に多く,飲酒や喫煙などが食道がんの発生に関与していると考えられています。飲酒により体内に生じるアセトアルデヒドを分解する酵素活性が弱い人(飲酒により顔が赤くなりやすい人など)は,食道がんが発生する危険性が高くなることが言われており,喫煙習慣も加わるとさらに危険性が高くなると言われています。日本人の食道がんの罹患数は男性で9番目,死亡率は男性で10番目となっています。
食道がんのうち,粘膜内にとどまるがんを早期食道がんと呼び,粘膜下層までにとどまるがんを表在型食道がん,固有筋層もしくはさらに深くまでがんが及んでいるものを進行型食道がんと呼びます。
食道がんは早い段階で自覚症状が出現することが少なく,進行するとともに,食物を飲み込んだ際のつかえ感や痛み,吐き気などが出現してきます。気になる症状がある場合には,早めに医療機関を受診し,内視鏡などの検査を受けることをおすすめします。
表在型食道がん(ヨード染色後)
進行型食道がん(ヨード染色後)
食道がんに対する治療
食道がんの治療は,大きく分けて内視鏡的切除,手術,放射線治療,化学療法があり,病期や患者さんの状態にあわせて,単独または組み合わせて治療を行います。
2017年版の診療ガイドラインでは,粘膜上皮(EP)もしくは粘膜固有層(LPM)までにとどまると術前診断した食道がんに対しては,内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの内視鏡的切除を選択するとされ(3/4周以上〜全周性病変に対しては他の治療も検討する),粘膜筋板(MM)に達すると術前診断した食道がんに対しても,体力が十分でない患者さんの場合には,まず負担の少ない内視鏡的切除を考慮する,とされています。一方,切除標本による組織診断で,病理学的深達度EP/LPMであった場合は,リンパ節転移は極めて稀であり,追加治療は行わず経過観察するとされ,MMかつ脈管侵襲陽性であった場合は,手術や化学放射線療法などの追加治療を強く推奨するとされています。
内視鏡治療方法
従来のスネアを用いた内視鏡的粘膜切除術(EMR)では一括切除が困難であった大きな食道がんに対しても,近年はESDを行うことより一括切除が可能となっています。食道がんに対するESDは保険適応となっており,当院でも詳細な術前診断と患者さんの状態をあわせ,各科と連携をとりながら,適応のある食道がんに対して積極的にESDを行っています。ESDでの入院期間は通常1週間程度で,周在性の大きな食道がん以外は,術後の狭窄症状なども出現せず,退院後も入院前と同様の生活を送ることが可能です。
内視鏡治療
EMR(内視鏡的粘膜切除術)
高周波スネアを用いる方法です。
①病変の下に生理食塩水などの薬液を注入して病変部の粘膜下層を隆起させます。
②ループ状のワイヤーをかけます。
③ワイヤーをしぼり,高周波電流を流します。
④病変を切除します。
ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
①病変の範囲を適切に診断したのち,病変の周囲に十分な安全領域(非がん粘膜)を確保し,切除範囲に目印を付けます。(マーキング)
②病変の粘膜下層に生理食塩水などの薬液を注入し,病変部を固有筋層から浮かせます。
③マーキングのさらに外側で,高周波の電気メスを用いて,粘膜及び粘膜筋板を全集切開します。
④病変の粘膜下層を露出させ,粘膜下層を慎重に剥離していくことで,病変を完全に切除します。
⑤切り取ったあとの胃の表面に止血処理を施し,切り取った病変部は病理検査を出すために回収します。
⑥切り取った病変は顕微鏡による組織検査をし,根治しているかどうかの判断をします。
《広報誌「もみじ115号(2018.9)」に掲載した内容を再編集しました(2023.1)》
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