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疑わないと診断されにくいリンチ症候群

リンチ症候群とは

大腸,子宮,胃,卵巣,膵臓,腎盂・尿管,胆管,小腸,脳などの多臓器にがんを発症するリスクが高い遺伝性疾患です。常染色体優性遺伝形式の疾患で,リンチ症候群の原因遺伝子に病的変異が認められた場合,その子供には1/2(50%)の確率で同じ病的変異が遺伝します。

下図は19世紀初頭に報告されたFamily Gというがん家系でリンチ症候群という疾患概念が確立される契機になった家系図の一つですが,一見するだけで3つのがんが家系内に多発していることが分かります。

リンチ症候群の方が生涯で発症するがんの可能性を下の表に示していますが,一般集団(リンチ症候群ではない人達)に比較してそれぞれ10倍以上と,がん発症のリスクが非常に高いことが分かります。

〔表1〕

  リンチ症候群 一般集団
大腸がん 52~82% 5.5%
子宮内膜がん 25~60% 2.7%
胃がん 6~13% <1%
卵巣がん 4~12% 1.6%

何が原因? 診断された場合は?

リンチ症候群の原因は,遺伝情報を含む染色体の中にあるMLH1,MSH2,MSH6,PMS2といったミスマッチ修復遺伝子の病的変異です。これらの病的変異を治す治療は今現在ありません。しかしながら,リンチ症候群と診断された家系の方々にリンチ症候群に発症する関連がんの検診(推奨方法はリンチ症候群のサーベイランス〔表2〕)を行うことで,早期のがん発見・低侵襲でがんを治す治療の提供が可能となります。

通常のがん発症好発年齢に比較して,リンチ症候群の方はがん発症年齢が若く,またがんのできるまでの期間も早いため,通常の一般健診では早期発見できず,診断されたときにはがんを治す治療が提供できないほど進行しているというケースを経験することがあります。よって,リンチ症候群と診断を受けられた方の家系内で遺伝している可能性がある方を対象として,血縁者診断を進めていきます。そして,確定診断が付いた方は上記の検診を受けることが推奨されますし,診断されなかった方はがん発症のリスクは高くないことが分かり,安心していただけます。

どのような方が疑われる?

本邦では,大腸がん発症者からリンチ症候群を拾い上げていく手順を示した遺伝性大腸癌診療ガイドラインがあり,次に示した基準を一つでも満たす場合は追加の臨床検査に進んでいくことになります。簡潔にまとめますと,大腸がんに非常に若くして罹患した,大腸がん以外に複数臓器のがん発症の病歴を持っている,また家系内にがんの発症が多発しているという方が疑われるということになります。

リンチ症候群が疑われる項目

  • ・50歳未満で診断された大腸がん
  • ・年齢に関わりなく,同時性あるいは異時性大腸がんあるいはその他のリンチ症候群関連腫瘍がある
  • ・60歳未満で診断されたMSI-Hの組織学的所見を有する大腸がん
  • ・第1度近親者が1人以上リンチ症候群関連腫瘍に罹患しており,そのうち一つは50歳未満で診断された大腸がん
  • ・年齢に関わりなく,第1度あるいは第2度近親者の2人以上がリンチ症候群関連腫瘍と診断されている患者の大腸がん

リンチ症候群の診断・マネージメント

リンチ症候群患者に発症するがんの中で最も多いとされる大腸がんの中でのリンチ症候群の頻度は1~3%とされています。2016年の本邦の大腸がん発症者は158,117人ですが,仮にその2%とすると,約3,160人/年がリンチ症候群の大腸がんであることになり,意外に高い頻度です。

大腸がんは欧米化した食生活などが原因で近年右肩上がりに増加している疾患であります。我々は消化器外科として大腸がんの外科治療を担当しているわけですが,その中からリンチ症候群の患者を拾い上げることを積極的に行っています。

リンチ症候群の診断手順

下図は遺伝性大腸癌診療ガイドラインに示されているリンチ症候群の診断手順です。その拾い上げには,その患者の病歴だけでなく家系内のがん罹患情報も必要とされますが,現在核家族化が進んでいる本邦では,家系内情報を得ることが難しいことが増えてきています。また,診断手順が煩雑であり,多忙な日常診療の中できちんとできている施設は限られているのが現状です。また,確定診断のための遺伝学的検査は本邦では保険収載されておらず,10~20万円と高額な費用が必要で,積極的な診断が進まない一因となっています。

リンチ症候群のサーベイランス

しかしながら,リンチ症候群と診断された家系の方々にリンチ症候群に発症する関連がんのサーベイランス〔表2〕を行うことの有効性は示されており,そのためにもリンチ症候群の拾い上げ・診断が重要なことは明白です。そこで,当院では臨床研究として大腸がん手術症例全例で,リンチ症候群の原因となる蛋白質の免疫組織染色を用いた高精度のスクリーニングを行っております。さらに,そのスクリーニングで拾い上げられた症例に対しては専門医による遺伝カウンセリングの上,リンチ症候群の遺伝学的検査を行っています。今年度より,今まで自費診療であったリンチ症候群に対する遺伝カウンセリングが保険収載されたのも追い風となっています。

確定診断の遺伝学的検査に関しては,リンチ症候群の多施設共同研究(Dial study)へ登録し,研究費で遺伝学的検査が行える体制を構築しています。また,多臓器にがんが発症する疾患の特徴上,当該する診療科が多岐にわたることより,院内で各専門医により構成されるgermline医療部会を月一回開催し,症例検討を行っています。よって,リンチ症候群の確定診断症例に対しても,関連する当該診療科と連携し,関連がんのサーベイランスを行うことが可能です。

〔表2〕

部位 検査方法 開始年齢 検査間隔
大腸 大腸内視鏡 20~25歳 1~2年
子宮・卵巣 経膣超音波
子宮内膜組織診・細胞診
血清CA125
30~35歳 半年~1年
胃・十二指腸 上部消化管内視鏡 30~35歳 1~2年
尿路 検尿・尿細胞診

若年発症のがんの既往,複数臓器のがん罹患歴,家系内にがんの発症が多発していることなどがあり,遺伝性の疾患を心配されるかかりつけの患者さんがおられましたら,当院に紹介してください。

《広報誌「もみじ137号(2020.7)」に掲載した内容を再編集しました(2021.10)》

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