「胃食道逆流症」は，胃液が食道に逆流して起こる病気です。胃と食道の間の逆流を防ぐしくみ（筋肉）が弱ると胃液が逆流し，胸やけ，どん酸（酸っぱいもの，苦いものが口に戻ること）などの症状が起こります。食道は胃酸に弱いためにただれます。以前は「逆流性食道炎」と言われることが多かったのですが，胃カメラで直接ただれが観察できない例もあり，逆流の症状がある方を含め，広い考え方で「胃食道逆流症」と呼ばれます。食生活の欧米化（脂肪，甘いもの，香辛料などの多い食事），高齢化に伴い，患者さんが増加しています。

この病気の方は，高血圧，狭心症といった病気などにより日常生活で苦痛が強いとの報告があります。最近では胸やけ，どん酸といった典型的な症状以外に喉のつかえ，胸痛，背部痛（背中の痛み），声のかれなど，消化器症状以外のさまざまな症状の原因になりうることがわかってきています。

腰の曲がったお年寄りの女性などに多いのも特徴です。食後（間食後を含む）２時間以内に前かがみの畑仕事や，重い荷物を持つなどの腹圧がかかる作業をした際に不快な症状が起こる場合は疑う必要があります。一方，若い世代の方では，働き盛りの肥満傾向（生活習慣病予備軍）の男性などにもみられます。夜間の就寝中に胃液が逆流することで，不眠になるケースがあります。食べ過ぎ，飲み過ぎの是正など生活習慣の改善も大切です。便秘なども悪化要因になりうるため，便通のコントロールも大切です。

胃食道逆流症はある種のお薬で，症状が悪化しやすいことがわかっています。例えば，高血圧などの薬であるカルシウム拮抗薬，狭心症の薬である亜硝酸剤，更年期障害などで使用される女性ホルモンは食道と胃の境の筋肉を緩めるため，逆流症状を引き起こすことがあります。また，お腹の動きを悪化させる抗コリン作用のあるお薬（精神神経系や頻尿に対するお薬など）も誘引になります。

逆流している胃酸が強い方ほど症状が出やすいため，胃酸を抑えるお薬（酸分泌抑制剤）が効果的です。多くの方はプロトンポンプ阻害剤で劇的に症状が改善します。それ以外にH2ブロッカーやお腹の運動を改善させる薬（消化管運動改善薬）が有効な方もおられます。

軽症の方は，生活習慣の改善（食べ過ぎ，肥満の解消，便通コントロール，食べてすぐに横にならないなどの注意）で改善することもあります。胃食道逆流症のスクリニング用の問診リスト（下表）を参考にしてください。一般的にその合計点が8点以上であると，胃食道逆流症の可能性があるといわれています。生活指導やお薬で快適な生活を取り戻すことが出来ますので，可能性がある場合は是非，外来でご相談ください。